ジョン・ディー,天使の言葉を解読した魔術師

ジョン・ディーは、エリザベス朝のイギリスを代表する魔術師。天使の言葉を解読しエノク魔術を体系化したが、一方で優れた機械技術者でもあった。

ジョン・ディー,天使の言葉を解読した魔術師

ジョン・ディー

ジョン・ディー(1527年 – 1608年または1609年)

ジョン・ディーとは何をした人物か?

・イギリスの錬金術師,魔術師
・天使との交流に成功し「エノク魔術」を体系化する
・錬金術・ヘルメス学・カバラ研究に没頭しエリザベス朝のイギリスにおける第一級の降霊術師あるいは魔術師として恐れられた。

経歴と時代背景

ジョン・ディー1527年にイギリス王室の下級官僚のもとに生まれる。

当時のイギリスでは宗教改革が起きていた。その影響で、哲学は修辞学の下に置かれ、学問の現場は味乾燥なものになっていた。

こうしたなかで、1542年にケンブリッジ大学セント・ジョン・カレッジに入学。

彼が求めたのは修辞学に傾倒する人文主義的なルネサンスではなく、哲学、神学、科学を重視したギリシア復興運動のルネサンスだった。

これを求めたディーは、大学の正規カリキュラム以外にも私的な学術サークルに参加し、学問に邁進。
飲食は1日2時間、4時間を睡眠にあて、残りの18時間をすべて祈りと研究に費やすという戒律を自らに課した。

こうした努力が実ってか、1546年にはトリニティ・カレッジ創立とともに特別研究員の地位を与えられる。

そこでは、学内で上演されるアリストファネスの『平和』の演出を手がけることになるが、観衆は黄金虫が人間を乗せて天へ昇っていくという場面の演出で度肝を抜かれ、ディーが魔術を使ったという噂でもちきりになる。

これは魔術ではなく、当時の彼は機械工学に没頭しており、この空飛ぶ巨大な黄金虫はディーが制作した大がかりな機械であった。

その後の彼はオックスフォード大学から数学の講義を要請されるが、ロジャー・ベーコとの一件から辞退。

この大学も、哲学と科学の伝統を無視しており、特に数学に関しては彼の望むべき水準に達しているとはとてもいえなかったという。

以来、オックスフォードとケンブリッジ両大学を訪れることがなかったディーだが、個人的な研究として、数学と密接に結びついた錬金術やヘルメス主義、ユダヤ教の神秘的教説であるカバラの研究を開始する。

投獄

メアリ1世や王女エリザベスの星位を占星術によって計測するために女王に招聘されたジョン・ディーだったが、突如として1555年に反逆罪の嫌疑をかけられ投獄。

宗教裁判が行われたものの無罪放免となり、再び宮廷に迎え入れられ、エリザベス1世即位の戴冠式の日取りを計算するまでになる。

裁判の容疑はハッキリしないままであった。

なお、エリザベス1世はメアリのカトリック復帰政策に対しトマス・ワイアット(Tomas Wyatt 1521頃~54)が反乱を起こした際、陰謀に加担した嫌疑を受けて1554年に投獄された事があるため、これに連座したものだったとも推測できる。

私設アカデミー

また、この時期のディーは数回にわたって大陸を訪れ、母国ではあまり受け入れられない知識や貴重な研究書を収集していく。

彼の蔵書は写本170冊、印刷本2500冊という偉容を誇り、一説には世紀の奇書として名高いヴォイニッチ手稿を手にしていたこともあるという。

そこには、古代からイタリア・ルネサンスに至る科学と神学、魔術関係の著作が網羅されていたばかりではなく、古典文学や美術、建築に関するものも含まれており、ひとつの主義主張に偏ることなく、全体的なバランスを配慮して収集されていた。

これらの膨大な蔵書はイギリスの学者や技術者が自由に利用でき頻繁に使用されるなど、モートレイクにあった彼の私邸は一種の私設アカデミーになっており人材交流の場となっていたのである。

霊媒師エドワード・ケリーとの出会いと天使魔術

エドワード・ケリー

ときには女王も訪れることのあったモートレイクで、ヘルメス主義の研究を行っていたディーだが、ここで霊媒師のエドワード・ケリーと出会うことになる。

詐欺師として悪名高いケリーだったが、魔術に関する知識は豊富なものだったという。
やがてディーはケリーを霊媒として、天使との交流に成功する。

そして1580年代初頭には、つまり天使と交流することによって叡智を獲得する「天使魔術」の実践を開始する。

天使と交流する際にディーはカバラを用いた。
ユダヤの秘教であるカバラはルネサンス期にヘルメス主義に吸収され、ルルス主義の復興と結びついてキリスト教化されていた。

このため、天使魔術の実践と深くかかわるようになっていたのだった。
スペインの神学者ルルスに深く傾倒していたディーは、これらの知識によって秘義を学ぶことを切望していたのだった。

天使との交流は水晶球、記号や名前が一面に刻まれたテーブル、特定の古代文字が刻まれたアエメトの大印章が用いられ、やがて象形文字に宇宙の秘義が隠されていると考えたディーは、天使と交流する際に「エノク語」を使い始める。

旧約偽典『エノク書』に由来するエノク語は、人間が天使と交流する際に使った言語であるとされる。

ディーは、天使の本質を表わす名称や記号、数値を記した「エノキアン図表」を用いて、天使との交流をはかるなど、象形文字や寓意図像などをさかんに研究していた(ルネサンス期の特徴のひとつでもある)

象形文字に宇宙の秘義が現れているという主張は、ディーの主著『象形文字の単子』に描かれている。宇宙の本質とされる単子は、占星術による複雑な意味と錬金術の過程を象徴的に表わしているが、ディーが考えた錬金術とは、カバラに由来する概念や実践を基本的な錬金術の概念に加味し、その全体が数学的公式を兼ね備えたものだった。

複雑な魔術と科学的努力をひとつの体系に結実しさせていくところに、西洋錬金術が科学の発展の土台になった歴史を窺い知ることが出来る。

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