一杯のかけそばに感動するような奴とは関わるな

1982年、「一杯のかけそば」という実話をもとにしたとされる童話がブームになった事がある。道徳の授業でも題材に使われたことは多いので知ってる人も多いだろうが、知らない人の為にwikiからあらすじをペタリ。

「一杯のかけそば」に感動するような奴とは友達になるな。

plate of pasta
かけそば

1972年の大晦日の晩、札幌の時計台横丁(架空の地名)にある「北海亭」という蕎麦屋に子供を2人連れた貧相な女性が現れる。閉店間際だと店主が母子に告げるが、どうしても蕎麦が食べたいと母親が言い、店主は仕方なく母子を店内に入れる。店内に入ると母親が「かけそば(つゆが入った器に茹でた麺を入れただけの、種を入れていない蕎麦)を1杯頂きたい(3人で1杯食べる)」と言ったが、主人は母子を思い、内緒で1.5人前の蕎麦を茹でた。そして母子は出された1杯(1杯半)のかけそばをおいしそうに分け合って食べた。この母子は事故で父親を亡くし、大晦日の日に父親の好きだった「北海亭」のかけそばを食べに来ることが年に一回だけの贅沢だったのだ。翌年の大晦日も1杯、翌々年の大晦日は2杯、母子はかけそばを頼みにきた。「北海亭」の主人夫婦はいつしか、毎年大晦日にかけそばを注文する母子が来るのが楽しみになった。しかし、ある年から母子は来なくなってしまった。それでも主人夫婦は母子を待ち続け、そして十数年後のある日、母とすっかり大きくなった息子2人が再び「北海亭」に現れる。子供たちは就職してすっかり立派な大人となり、母子3人でかけそばを3杯頼んだ。

一見すると良い話に聞こえるが、よく聞くとデタラメにもほどがある話だ。
ここで全文が読めるけど、この当時のかけそばって一杯150円なんですよ。

調べてみたところ、1972年の大卒初任給は4万円ほど。5年後には2倍以上に跳ね上がっていて高度経済成長期の影響をモロに感じさせるが、この時代のかけそば150円って現在に換算するとどれぐらいになるんだろうか。

「季刊 麺の世界」という専門誌にてラーメン価格の推移が載っていたが、概ね一杯あたり100円前後。

目分量で推測するしかないが、おおむね600~700円前後ってところではないだろうか。

700円前後のかけそばを三人で分け合うって、どれほどの極貧生活なのだろうか?PDFを読めばわかるが、貧乏になった理由というのも、この家族の父親が交通事故を起こして8人ほどに怪我をさせてしまい毎月5万円を慰謝料として支払わなければならなくなった事が原因だという。

大卒初任給4万円の時代に、5万円の慰謝料というのは一体どれだけ身を粉にして働いたのだろうか。おそらくお母さんは大人の銭湯で働いているのだろう(ゲス)とは思うが、総合して判断すると、やはりウソくさい。

我らがタモリ先生によれば「その当時、150円あればインスタントのかけそばが3個買えたはず」として本作を「涙のファシズム」と批判したそうだ。

「涙のファシズム」とは上手い言い回し、是非とも使わせて頂きたいのだが、そのファシズムっぷりは当時すごかったらしく「読む人誰もが涙するという幻の童話」という触れ込みでワイドショーなどを賑わせ大きなブームとなり、公明党の大久保直彦が竹下登首相に対する質疑で当時話題となっていた本作のほぼ全文を朗読・紹介して、リクルート問題に関する質問をし、同じ自民党の金丸信も泣いたということで話題になったそうだ。

萎える話ですなあ、と思ったが考えてみれば、あれから数十年「一杯のかけそば」から世間は進歩しただろうかというとそうでもない。

「江戸しぐさ」みたいが登場するあたり、本質的には何も変わっていない。

本気で信じている奴は救えないが、「ウソだとしても感動できれば別に良いんだよ」と考えてる奴がこの手のブームを加速させるのだろうなあ、と。

さて、タイトルが「「一杯のかけそば」に感動するような奴とは友達になるな。」という訳だけども、なぜ友達になってはいけないのか。

「実話を元にしたといっておきながら、実はウソだったから」という訳ではなくて、「感動」「泣ける」あるいは「浪花節」に傾倒しがちな奴ってのは論理的な話が出来ない奴が多い。

すぐに感情論に流れるっていうか。

この「一杯のかけそば」なんて典型だけど、世間で感動をよんでいる作品にケチや疑問をつけたりすると「変わってる」とか「野暮」とか「お前には他人の気持ちが判らないのか!」とか批判された経験ってありません?

感動って人の判断力を狂わせるねん。これが映画みたいな創作だったらまだええけど(実際には「恋空」みたいな例もあるので一概には言えんが)、実話を元にしたってパターンには要注意や。

奇跡の詩人なんかも似たような例やな。

これを批判すると、こちらが「差別主義者」やら「人の心がない」として批判されるでな。

世間が妙に感動しているものには一歩引くぐらいの姿勢やないとアカン。そして、それを真に受けてる様な奴が周りに居たら距離を置いたほうがええで。

確実にアホやから。

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